文献庫

 このコーナーは健康とランニングに関する文献・参考になるHPを集めてみました。健康にランニングはよいとか、いや突然死の危険があり注意すべきだとか いや健康寿命が延びるとかとかいろいろな意見が飛び交っています。しかしその根拠は単なる専門家の私見なのか、あるいは疫学的に証明されたものなのか、特定の群 たとえばアスリートを対象とした実験結果なのか、対象例はどのくらいの数で年齢のばらつきはどのくらいあるのか、前提条件は? など根拠となる元文献をよく読んでみないとあらぬ誤解をしてしまう恐れがあります。

そこでこのコーナーでは私の気になる文献とHPを集めてみました。

本来であればすべて原著を掲載するべきですが、一市民ランナーでは限界があるので私の入手可能な範囲での掲載となっています。

皆さんの参考となれば幸いです。

2014/9/19記

●Covid-19(武漢肺炎)とランニング

2020年。

ランニング大会はcovid-19で軒並み中止。

国内でも緊急事態宣言が発出され不要不急の外出はできない状態です。

2020年3月28日新型コロナウイルス感染症対策本部より

新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針が発表されております。

それによると

①密閉空間(換気 の悪い密閉空間である)、

②密集場所(多くの人が密集している)、

③ 密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる) という3つの条件のある場では、感染を 拡大させるリスクが高いのでSocial distancing:(社会的距離・2m程度)をとること。

それ以外にも激しい呼気や大きな声を伴う運動についても感染リスクがある可能性が指摘されている。

「野幌森林公園を走る会」定例走会では多数の参加者(20~30名)が遊歩道の狭い一本道を走るという状況を考えると密閉空間ではないものの密集、密接のリスクは常に考えなければならないと思います。

そんな中気になる報告がラン友から紹介されました。

ランニング、ウオーキング、サイクリング時の呼気粒子の動態に関する報告です。

結論はウオーキングは4~5m、ランナーの後方を走る場合10mは呼気粒子に暴露する可能性があるとのことです。最もこの報告でランナーは時速14.4km(4min10sec)という一般市民ランナーではかなり速いペースです。また感染ランナーの呼気粒子に暴露することがイコール感染するとは断言しておりませんが頭に置いておく必要があるかもしれません。

 

文献タイトルと内容をGoogle翻訳で日本語訳にしたものを掲載します。 

2020/04/17 記

 

Belgian-Dutch Study: Why in times of COVID-19 you should not walk/run/bike close behind each other. 

  

 【日本語訳】

COVID-19回のランニング、サイクリング、ウォーキングの安全距離はどれくらいですか? さまざまな国で規定されている一般的な1〜2メートルを超えています。

  

多くの国では、ウォーキング、サイクリング、ジョギングがCOVID-19のこの時代に歓迎される活動です。 ただし、これらのアクティビティを実行するときは、お互いのスリップストリームを回避する必要があることに注意することが重要です。 これは、KUルーベン(ベルギー)とTUアイントホーフェン(オランダ)による研究結果に基づいています。

(1)(2)(3)(4)

 

多くの国が1〜2メートルの範囲で適用する一般的な社会的距離のルールは、風が弱くて内側または外側にさえ立っている場合に効果的です。 ただし、散歩、ランニング、自転車に乗るときは注意が必要です。 ランニング中に誰かが呼吸したり、くしゃみをしたり、咳をしたりすると、それらの粒子は空気中に残ります。 いわゆるスリップストリームであなたの後ろを走っている人は、この液滴の雲を通り抜けます。

 

研究者たちは、運動中(歩行および走行中)のさまざまな位置(互いに隣り合っており、互いに斜めに向かい合って直接向かい合っている)からの唾液粒子の発生をシミュレートすることでこの結論に達しました。 通常、このタイプのモデリングは、お互いの気流にとどまることが非常に効果的であるため、アスリートのパフォーマンスレベルを向上させるために使用されます。 しかし、COVID-19を検討するときの推奨事項は、調査によると、スリップストリームに触れないことです。

 

テストの結果は、いくつかのアニメーションとビジュアルで表示されます。 人が残した水滴の雲がはっきりと見える。 「くしゃみをしたり咳をしたりする人は、液滴をより大きな力でまき散らしますが、呼吸するだけの人も粒子を残します。」 画像の赤い点は最大の粒子を表しています。 これらは、汚染の可能性が最も高くなりますが、より早く落下します。 「しかし、その雲の中を走るとき、彼らはまだあなたの衣服に着陸することができます」とバート・ブロッケン教授は言います。

 

シミュレーションから、隣り合って走ったり歩いたりするときに、風の弱い環境で2人が社会的に離れていることの役割はあまりないようです。 液滴はデュオの後ろに着陸します。 互いの背後に斜めに配置されている場合、リードランナーの液滴を捕らえるリスクも小さくなります。 汚染のリスクは、人々がお互いのスリップストリームの中でちょうど後ろにいるときに最大になります。

 

これらの結果に基づいて、科学者は、同じ方向に移動する人々の歩行距離は1列で4〜5メートル、ランニングとスローバイクは10メートル、ハードバイクは少なくとも20メートルであるとアドバイスしています 。 また、誰かを追い越すときは、かなりの距離を置いて別のレーンにいることをお勧めします。 自転車で20メートル。

これは間違いなく私が考慮に入れる情報であり、混雑した公園の閉鎖なども視野に入れています。おそらくより良い方法は、自分で、または少なくとも十分な距離を置いて、通りを走るだけです。 おげんきで…

 

Check also the Q&A with the Investigators: https://medium.com/@jurgenthoelen/why-in-times-of-covid-19-you-should-not-walk-run-bike-close-behind-each-other-follow-up-with-q-a-ca44e12cc54d

(1): https://www.demorgen.be/nieuws/belgisch-onderzoek-fietsen-joggen-of-wandelen-doe-je-best-niet-achter-elkaar-in-tijden-van-corona~b60aece6/

(2): https://www.hln.be/wetenschap-planeet/wetenschap/belgisch-onderzoek-fietsen-joggen-of-wandelen-doe-je-best-niet-achter-elkaar-in-tijden-van-corona~a60aece6/

(3): http://www.urbanphysics.net/Social%20Distancing%20v20_White_Paper.pdf

(4): http://www.urbanphysics.net/COVID19_Aero_Paper.pdf

 

 

そしてQ&Aはこちらです

 

Why in times of COVID-19 you should not walk/run/bike close behind each other — Follow Up with Q&A by the investigators.

 

 

 

その他こんな記事もありました。

https://www.surfnews.jp/feature/inside_story/31721/

●ランニングに関するevidenceとなる文献及びリンク集

1.ロンドンバスの運転手と車掌の心臓病に関する研究

 運動と健康について検討された初めての文献です。 

車掌は仕事中座りっぱなしのためどうしても運動不足になってしまいます。ところがロンドンバスは2階建なので車掌は1階と2階を行き来しているので活動量がかなり多くなります。運転手と車掌の心臓発作と心臓病による頻度を比べています。

東村山市のHPからの引用です。

 

2.ランナーと非ランナーでは寿命が3年違う

2014/7/28の米国心臓病学会誌(The Journal of the American College of Cardiology)で発表。

穏やかな運動のメリットに科学的根拠はないが、1日5分間のランニングは早期に死亡するリスクを大幅に低減するという報告です。

 

3.ジョギングを習慣的に続けていると、男性では6.2年、女性では5.6年、寿命が延びる

スローペースまたは平均的なペースでジョギングをすると効果的だという。この研究は、5月に欧州心臓学会が主催しダブリンで開催された学術会議(EuroPrevent 2012)で発表された。

 

Regular jogging shows dramatic increase in life expectancy(欧州心臓学会 2012年5月3日)

 

4.健康や長寿のためには「適度な運動」が必要と言われていますが、この「適度」という量がどのくらい?

 

 

結論1)健康な体で長生きするには「週に150分の運動を行い、そのうち20~30分は激しく体を動かすのがよい」

結論2)「運動しすぎは体に悪い」とはいえない。

 

5.ランニングを安全に継続するための月間走行距離の目安は?new

 

日本臨床スポーツ医学会学術委員会の提言として2002年10巻1号に「骨・関節のランニング障害に対しての提言」としてまとめられています。それによると

 

ランニング障害は(骨・関節・筋の障害)は走行距離が長くなるほど高率になる。一般に障害を予防するためには平均の一日走行距離を中学生では5~10km(月間200km)、高校生は15km(月間400km)、大学・実業団では30km(月間700km)にとどめることが望ましい。なお中高年サラリーマンでは加齢による運動器の退行性変性が存在し腰痛・膝痛が出現しやすいので、メディカルチェックを受けると共に月間走行距離を200km以内に止めることが望ましい。

 

日本臨床スポーツ医学会誌:Vol.13 Suppl.2005

 

5-a.ランナーの月間走行距離とテストステロンの関係から月間走行距離200km以下が望ましいことを示した奥井識仁先生のエビデンスがこちらです。

 

【コメント】

月間走行距離とフルマラソン完走率は正の関係があるという意見がある一方でこのような安全性に関するエビデンスを1市民ランナーとして頭に入れておくことが重要なことではないかと最近特に感じます。

奥井識仁先生は2016年7月に第6回日本Men's health医学会のモーニングセミナーでのご講演を聴講しました。その時のエビデンスがこのような形で一般のランナーにも共有されることに感謝です。

2017/9/14 記

 

5-b.奥井識仁先生が“運動ストレス性低テストステロン症”という新しい病態を提案されています。

マラソン大会で40代50代の男性が体調不良を訴え入院に至ったり中には大会中の心肺停止などの例に遭遇することがあるそうです。

このような場合過剰なトレーニングによる低テストステロンが認められるとのこと。

テストステロン値から健康的な運動量としては月間走行距離は120km~150kmくらいがいいようです。

その報告はこちらです。new

 2018/3/10 記

 

6.歩行速度を変えるとエネルギー消費量が大幅に(6~20%)アップする

 

この文献は歩行に関しての報告ですが、ランニング特にフルマラソンなど長距離ではペースが一定でないとスタミナ切れをよく経験します。効率的な走りはやっぱりイーブンペースがいいのかも。逆にダイエットなどカロリー消費を目的とする場合はペースを変えるのが効果的ということになります。

 

Biol Lett. 2015 Sep;11(9). pii: 20150486. doi: 10.1098/rsbl.2015.0486.

 

7.ランニングなどの持久的な運動前には過剰な静的ストレッチは行う必要はない

 

運動前のストレッチングがパフォーマンスに及ぼす影響についてのレビュー。筋の緊張緩和や血流改善によりパフォーマンスの向上、傷害予防を期待されていたランニング前の静的ストレッチ。走る前に何気なしに実施していますよね。この考え方に最近の研究結果を踏まえて疑問を投げかける論文です。

柔軟性とランニング中のエネルギーに正の相関関係があるとの報告がある。つまり柔軟性の高いものほど、ランニング中にエネルギーの無駄遣いをすること意味する。つまり過剰な静的ストレッチングは持久的な能力が必要とされる運動の前には控えた方がいい。ただし実際のスポーツをシミュレートした動作を取り入れたダイナミックストレッチは有用である。

 

山口太一ら:JAPAN STRETCHING ASSOCIATION  Oct.2007

●突然死関連の文献及びリンク集

1.Cardiac Arrest during Long-Distance Running Races

 Baggish, M.D. for the Race Associated Cardiac Arrest Event Registry (RACER) Study Group

N Engl J Med 2012; 366:130-140January 12, 2012DOI: 10.1056/NEJMoa1106468

【内容】

 米国で2000年1月1日〜10年5月31日に開催されたフルマラソンおよびハーフマラソン大会中(競技中もしくはゴール後1時間以内)に発生した参加者の心停止発生例とその転帰について評価。フルマラソンおよびハーフマラソン大会の延べ参加者数は1,090万人。

そのうち59例(フルマラソン40例,ハーフマラソン19例)で心停止が発生(平均年齢は42歳,男性51例)。

10万人当たりの心停止発生率は0.54

フルマラソン(1.01)がハーフマラソン(0.27)の約4倍有意に高い

男性(0.90)が女性(0.16)5倍以上有意に高い(いずれもP<0.001)。

 

心停止59例における死亡例は42例(死亡率71.2%

10万人当たりの死亡率は0.39

心停止死亡率ではフルマラソン(0.63)はハーフマラソン(0.25)に比べ2倍以上有意に高い(P=0.003)

心停止59例中完全な臨床データが集計できたのは31例。うち死亡例は23例。死因の内訳は肥大型心筋症(8例)および同症の疑い(7例)で過半数を占めた。

 

【結論】

  • フルマラソンおよびハーフマラソンの大会中の心停止リスクは極めて低い
  • 71%という死亡率も、日常生活における心停止による死亡率が92%というデータと比較して極めて低い


2.スポーツ中の突然死

高田英臣、村山正博:日内会誌 87:77-82,1998 

【内容】

1984~1988年の5年間にスポーツ中に突然死を生じ、警察に報告された645例についての分析した報告です。この中でスポーツ種目別の突然死危険率を40~50歳と60歳以上で算出した表が掲載されています。それによると40~50歳の突然死危険率は


1.剣道(相対危険率2.5) 

2.スキー(相対危険率1.9) 

3.登山(相対危険率1.8)

となっています。


また、60歳以上では


1.ゴルフ(相対危険率7.5) 

2.登山(相対危険率6.1)

ゲートボール・ダンスと続きます。


なお、ここでいう相対危険度は年代によってスポーツ愛好家が異なることを考慮して単なる突然死発生数ではなく以下の方法で算出している。

 

危険率=年間死亡数/(人口×スポーツ参加率×年間参加回数×1回参加時間)

表3 スポーツ種目別の突然死危険率(40~50歳)

スポーツ種目 死亡率 スポーツ活動時間 /億人・時間 相対危険率*
ゴルフ 41 26,849.885 6.5 0.6
ランニング 33 29,164.154 11.3 1.0
水泳 14 20,511.727 6.8 0.6
スキー 12     5,705.6616 21.0 1.9
登山 11     5,358.1641 20.5 1.8
野球(合計) 10     7,125.0299 13.0 1.2
テニス(合計) 8     5,950.5314 3.4 0.3
卓球 6     7,462.4716 8.0 0.7
剣道 6     2,093.4854 28.7 2.5

*相対危険率はランニングの危険率を1.0として求めた

表4 スポーツ種目別の突然死危険率(60歳以上)

スポーツ種目 死亡率 スポーツ活動時間 /億人・時間 相対危険率A* 相対危険率B**
ゲートボール 44 28,995.036 15.2 1.6 1.3
ゴルフ

40

    1,690.7374 73.2 7.9 6.5
ランニング 18 29,426.417 9.3 1.0 0.8
登山

11

   1,593.7281 69.0 7.4 6.1
水泳 8     6,599.4611 12.1 1.3 1.1
ダンス 8     5,254.7725 15.2 1.6 1.3
テニス(合計) 7          72.3882 7.5 0.8 0.7

*相対危険率Aは60歳以上のランニングの危険率を1.0として求めた

**相対危険率Bは40~59歳のランニングの危険率を1.0として求めた

3.マラソン中の突然死

佐藤隆久 徳島西医師会HP 調査と研究

 周りの方とお話をしているとランニング中の突然死について見解を求められることがよくあります。そんな時マラソンと突然死の関係について調べていたところ詳細に検討されているHPを発見。著者の先生のご厚意によりリンクを張らせていただきました。